K's Review

書きたいこと いろいろ!!

小説【銀二貫】(高田 郁)

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わたしたち日本人の 古くからの心情は どうだったんでしょうか?
いま その心情は どうなっているんでしょうか?

アメリカとアメリカニズムは
アメリカが世界の覇権を持ってからなら 約1世紀
ペリーが浦賀に現れてからなら 1世紀半ちょっと ...
それくらい長い間 日本に 強い影響を与え続けてきたと言えます.

その プレッシャーと言ってもいいような影響力が
今 急速に低下してきていると思っているのは
私だけでしょうか?

アメリカ型の手近さを求めない!!
少し回りくどくても ”和” がイイ!!
そんな感性が 自分の中で 頭をもたげてきているのが わかります.
もちろん 一部は 私自身の老化から来ているのでしょうが ...
そんなところを 若い人たちにも聞いてみたいとも思っています.

NHK放映の テレビドラマ【銀二貫】は
そんな私の感性を強く刺激するものでしたから
さっそく 小説【銀二貫】を買って読むことにしました.

そこで 自分が感じたこと それは 新しい ”ジャポニズム” の復活
とでも言っていいようなものでした.
人間への信頼 人を大切にすること
義理にそむかないこと 信念を持つこと
長く思い続けること 改良し続けること ......
これらは みんな 何かをやろうと思った日本の人たちが
考え続けたことかもしれません.
そんな姿を 見たいと思ったら
それは この小説の中にある” と言ってもいいかもしれません.

誠実で 向上のためには努力を惜しまない
第一世代の 寒天商人=和助
新しい素材に食いついて 離そうとしない
第二世代の 職人=松吉
彼らが織りなす物語が
新しい ”ジャポニズム の ともしび にでもなってくれればとも
思ったりしていますが
そもそも そんなことを考えなくとも
この上なく面白い この物語を おすすめするのは
もちろんです.

幻冬舎 時代小説文庫]

映画【あしたの私のつくり方】

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私たちの周りには
ひどく人工的な世界が広がってしまっているんだと思う.
家庭でも会社でも学校でも ...

その背景は ”高度な現代社会” というヤツだけれど
それが最も純粋に現れているのは ”郊外” かもしれない.
郊外のアパーな家庭ならば さらに純粋かもしれない.

映画【あしたの 私の つくり方】は
そんな人工的な空間で
人は しっかりと生きて行けるのかを 試行した
女の子 のドラマだと思う.

主人公”寿梨” は そんな人工的オキテを知りながら
適当に利用してもいる女の子!!
クラスメート”日南子” は いっときオキテの中で
優位を占めていたのに
あるときから 疎外されてしまった女の子!!
そんな二人を中心にした 小学校六年生から高校三年までの物語.

”寿梨” と ”日南子” に アカルイ明日が あったかというと
そうでもない.
しかし チクチク心を刺すような オキテの世界から
羽ばたいていったことは まちがいない.

主演の 成海璃子 は 撮影当時十四才くらいだけれど
知的で 鋭い感性の 女の子を 好演している.
前田敦子 も 悪くない.

象徴的な場面 クリアで美しいショット
女の子たちの 小さな苦しみを 透明に表現した手法
市川純 監督の力量も 見逃せない.
亡くなられたことが 残念です.

小作だけれど 何度も観たいと思わせる
立派な作品だと思う.

Hulu で観ました ]

映画【アトランティスのこころ】

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子供の頃 影響を受けた人って どうだろうか?!

私の場合 母が勤めていたから
あるいは 母が厳しすぎたから
(別の面で 私に対して 本当の興味がなかったから ...)
祖母 の影響が 一番だった.

少し弱い影響ならば
小学校の 3〜5年の担任だった 年のいった S先生(女性)
そして 今はまったく交流のない 叔母.
実は もっといる.

最近は 昔のことを思い出すことも多いが
以前ならば ”この人が こうしてくれた!!” で終わりだったけれど
今は ああしてくれたのは こんな意図があってのことなんだ.
私に こう言いたかったんだ と考えることもある.

幼い頃受けた影響の意味は 小さくないんだって 思ってしまう.
同じ スティーヴン・キング 原作の
映画【スタンド・バイ・ミー】
少年時代のことを 回想した映画だったけれど
私ならば
映画【アトランティスのこころ】の方を 押したい.
主人公の少年を含む 三人の少年少女たちの
心の動きや 表情が とても良い.
彼らと 少年のアパートの二階に引っ越して来た 初老の男 の交流
名優 アントニー・ホプキンズ の演技は
この映画を 忘れがたいものに してくれていると思う.
カズオ・イシグロ 原作の 映画【日の名残り】
 執事役の演技も 忘れることができない!!)
それに 子供を抜けきらないまま 母親になってしまった女性を演じる
ホープ・デイヴィス も良い.

少年の母親の周辺でも いろいろなことが起こり
少年だけでなく 母親にも
彼女自身の 生きる時間があり その時間を生きていることが
巧みに表現されている.
そうした 親子の 生きる時間の交錯も 副題になっている.

良作です.

Hulu で観ました ]

 

映画【 息もできない 】

f:id:cocohate:20140412205230p:plain 私は 東アジア一帯には 精神的に共通な ”岩盤” が
あると思っている.
”家族” とか ”家族の絆(きずな)” という岩盤だ.

そのバックグラウンドは たぶん
”稲作” に由来していると思う.
だからこの岩盤は もしかすると もっと広く
台湾 / フィリピン / ベトナム / タイ / インドネシア
などにも広がっているかもしれない.
場合によっては 何千年にもわたって続けられてきた 稲作
農繁期の 長く激しい 労働
つかの間の 農閑期の 労働の緩む期間
これらが形作る 緩そうなのに切れにくい ”家族の絆”
愛し合っているというよりも
どちらかというとイガミ合っているような家族なのに
簡単には切れない関係.

アジアで最も 西欧化/アメリカナイズ が進んでいると思われていた日本でも
今 立ち止まってみれば そんなに昔と変わらない 人々の精神構造
今でも 我々の精神は この東アジアの岩盤 の上にあると言っていいと思う.
日本/韓国/北朝鮮/中国 の為政者たちが
どれだけ相手国を 罵っても
われわれは 変わることのない 共通の 精神的岩盤 の上に生きている
のだと思ってしまう.

もし 私の言うことがウソだと思うなら
この映画息もできないの中の人々を見るといい.
......
こんなに激しい暴力は なかったけれど
家族関係は 似たようなものだった.
......
私の家族は
...といっても 私自身
父と母と妹と私 という家族形態から離脱して40年にもなるけれど.
そんな昔 月末の給料日は 家族の修羅場だった.
たいてい 母がヒステリーを起こす.
父の給料が少ないと言って...
言ったってどうしようもないことなのに 怒りだす.
父よりも母のほうが 多くの給料を持って帰っていたのは事実だけれど
たぶん 母が怒っていたのは そのことじゃなくて
毎日の 追いたられるような生活を 恨んでのことだと思う.
最後には つかみあいの喧嘩になってしまうこともあったけれど
何日かすると いつのまにか 元通りの生活をしている.
そんなに憎ければ 別れればいいのに と思っても
いつも そうはならない.
そんな家族だった.

私は こんな家族が 東アジアの そこいら中に あると思っている.
そのことを 監督【ヤン・イクチュン】は
少し暴力的な形で 私たちに示してくれた.
主演格の二人 = ヤン・イクチュンキム・コッピ も良いし
手持ち風のカメラワークも秀逸だ.
超 傑作です!!

Hulu で観ました ]

映画【 ブラックブック 】

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オランダ出身の映画監督 = ポール・バーホーベン
2006年に制作した映画です.
彼は 当時 70才に近く
幼少期に 第二次大戦を経験しているようです.

映画のバックグラウンドは 第二次大戦末期のオランダ

1人のユダヤ人歌手
オランダ国内の ドイツ軍の管理の緩い地域に
脱出しようとします.

金を持つユダヤ人たち...
仕方が無いのです.
彼らが 迫害を受けようとする地域から逃げるには
金か 宝石か 債券か そんなものに頼るほかは ありません.
そんなユダヤ人たちに対して
彼らの持ち物を かすめ取ろうとする者
ドイツ軍の中にも
彼らを うまく取り締まって 何かを せしめようとする者と
彼らに対して 何らかの好意を寄せる者がいます.
そのドイツ軍と直接対峙する レジスタンス
その中も 一枚岩ではなくて
共産主義をめざすマルキストたちや
情報をドイツ軍に流す通報者もいます.

このようなバックグラウンドの中で
このユダヤ人歌手には 何が待ち受けているでしょうか?

明解なプロットの運び
連続するスリリングな場面
異常な事態の中でも失わない 人間への信頼

この作品を 優れた傑作と言えない理由は
何ひとつありません.
スリル と 早い場面展開 を受け入れられる方には
Must な映画だと言ってもよいかもしれません.

Hulu で観ました 】

映画【 四月物語 】

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大学入学後の四月を スナップショットに撮ると どうなるだろうか?
そのスナップショットは 物語 になるだろうか?
とても それが 物語にはなりそうになく思われるけれども
岩井俊二監督は それらを物語に変えてしまった.

だから この映画にクライマックスは無いし
目的に向かって進む何か も無い.
町に住む人たちの 環境映画 になっているように思う.
私は この環境映画を 高く評価したい.

良い場面を いくつも繋げれば 良い映画になるんだということを
知らせてくれた その新しい経験をさせてくれた 映画だともいえる.
松たか子清新な演技は 良い画面 に最も貢献しているかもしれない.
端役の演技者たちも とても良い.
しかし その役者さんたちが演じる 風景/場面 のセティングは
さらに素晴らしいかもしれない.
この 場面 アングル 切り取り などを決めたのは だれだろうか?
印象に残り 後まで覚えていそうな場面が 数多くある.

この映画は 最初 なんなんだ これは と思わせながら
ずっと最後まで引っ張って行ってくれて
ああ 良かったな と思わせてくれる 小傑作だと思います.

Hulu で観ました ]

[本]田辺聖子【ジョゼと虎と魚たち】(2)

”雪の降るまで”

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田辺聖子 の短編集【ジョゼと虎と魚たち】の
最後に位置する短編[雪の降るまでに]は
前にブログで書いた
短編[ジョゼと虎と魚たち]とは違った意味で
異色の短編です.
生きることに手慣れた 少し年のいった女性の話です.

物も人も しばらく交流していくと
しだいに その価値がわかってしまう

ということを
官能的な場面を交えながら 独白していく物語です.

この 田辺さん自身の考えを述べているような小編の中に
京都の 麩饅(ふうまん)のことが  出てきます.
ずっと前に 数回しか食べたことがあるだけですが
そのときの印象は
”こんな 美味しいものが 世の中にあるんだろうか?!”
というものでした.

それを聞いて 伯母が 京都に行くたびに
買ってきてくれたのでした.
あることがもとで 最近は疎遠なってしまいましたが
私を とても可愛がってくれたことを
なぜだったのだろうか と考えてしまいます.

その思い出といっしょに
麩饅 を もう一度食べたい気分です.